紅茶が冷めないうちに

たとえば死なない程度にひどいことしても許されるようなできあいの男を早いこと見つけて、自分の本当の気持ちを紛らわせよう、忘れてしまおう、としていると、不思議なもので徐々にきもちがうすれてゆく。そんな折に、急に買い物に行かないか、という内容のラインが入ったので、わたしは、急遽男と会う約束全てをすっぽかして、何にもないよ暇してただけ、というていを装い、彼に会うために電車に揺られたのです。

「わたしも買い物したいな、これから向かいますね」なんていうのは建前で、口実で、ほんとうは気持ちがうすまりつつありながら、恋人になれないビミョーな距離の友達であったとしても、あなたに会いたくなりました。気づけば帰り道の都内の高速下の分岐路で、そこであなたは「食べたいお店教えてくれたら車走らせるから」と言うので、わたしは頭がぱんくしそうになったのです。試されているのか?なんておもいつつ、とりあえずあなたがたっぷりにんにくの入ったギトギトのらーめんがとても好きだということを知っているので、わたしはらーめんのお店を調べるために、iPhoneのサファリに泡を食いながら「こってり らーめん 都内」と文字を打ちました。それもとっておきのお店がいい、「そこいいね、おれもいきてえ」と言ってほしい、共感を装ってまで気があうふりをしたとしても、あなたに好きになってほしい。消えてしまいそうなほどの淡い期待を抱きつつ、やっぱりわたしは本音をなにひとつ言えなかった

スニーカーやさんでわたしはかわいい靴をかわいいと言えなかった、食べたいものすら素直に食べたいと言えなければ、その服変だね!でも好きだよ、って、思っていること全部言えることができるならば、一文字残らず全て吐き出してしまいたいのに。お腹が空いてすらいなかった、お腹なんか空くわけないじゃん。胸がいっぱいでくるしいんだから。それに、本当は食べたいものなんかなかった、なんにも食べたくなかった、食べない方が、細いままいられるしね。心の中ではぐちゃぐちゃ、くるしい。それでも、なんでもないふりをして、嫌われたくないし今のままでいたい、だからあなたのしたいようにする、そばにいさせて、という気持ちでしがみついているのです。何も言えないくるしみと、偶然を装って期待に応えようとするずるさと、嫌われたくない今の関係壊したくないというよわさゆえ、本音が言えないわたしはくちなしなのです。